父を送る《改》
B6判/288ページ/600円(Kindle版は400円)
2022年の冬に亡くなった父親との、親一人子一人で歩んだ最期の半年間を振り返って綴りました。父親は在宅介護ではなく施設へ入居したので、看取りとも介護とも少し違いますが、誰にでもいつか訪れる老いや死について参考にしてもらったらうれしいです。
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遠出した翌週、父親に電話をかけて実家に向かった。
「悪いけど迎えに行けないから、」
と言いかける父親の掠れ声をさえぎって、
「分かってるよ。自分で向かうつもりだよ」
と返した。
駅前のコンビニで、とにかく食べられそうなものを手に取った。お茶、ポカリ、ゼリー状の栄養ドリンク、温めるだけのお粥……こんなもんだろう。
暑い日だった。コンビニのビニル袋の手さげ部分が腕に食い込むくらいの大きさになった重い荷物を抱え、ふぅふぅと言いながらバスに乗り、最寄りのバス停で降りて五分ほど歩くと実家に着いた。
持っている合鍵でさっさと玄関を開ける。居間に入ると、父親はリクライニング式の一人掛けソファに、埋もれるように座っていた。私の想像を超える具合の悪そうな様子と痩せっぷりに、ほんの一瞬言葉が詰まった。
「すごい痩せちゃってるじゃん」
「誤嚥が怖いから何も食べられないんだ」
結局、息苦しい原因は分からずじまいで、とにかくまた来月通院してその時に相談する、と言う。声の掠れはますます酷くなっていて、普通に会話しているだけなのに肩が大きく上下していた。
立とうとする父親を制し、買って来たものを大きな声で説明しながら冷蔵庫などにしまう。ひと通り片付け終わると、いつの間にか父親はソファから移動していた。何やら書類の束を持って畳の上に座り込み、改まった顔をしている。
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